回収された特攻隊員の遺書1000通……だれが、なんのために?

発見された特攻隊員の遺書
NHKネットクラブ「クローズアップ現代」案内より

きょうのクローズアップ現代は、海上自衛隊の施設内で見つかった特攻隊員の遺書1000通についてとりあげていました。数日前にニュースになったらしいのですが、うっかり見逃していたので、興味深く番組を見ました。遺族にとって形見でもある大事な遺書を、いったい、誰が、なんのために回収したのか? これについて何の資料も残っていない、というのです。

 

結論を言うと、戦後、海軍を改組してできた第二復員省がこれに関わっていたということでした。具体的には、特攻隊の指揮命令系統の最高幹部の一人であった寺岡元中将がひそかに部下の猪口力平元海軍大佐に命を下し、猪口大佐が民間人を使って回収にあたらせたことが分かりました。その民間人は特務機関(“官”と署名されていた)近江一郎と名乗り、「遺族調査」という名目で遺族を訪ね、遺族の生活状況や遺族間の交流の有無などについて聞いたうえ、隊員の遺書や写真などを受け取っていたのでした。 

 

目的は何だったのか。番組では、昭和26年に寺岡元中将や猪口元大佐たちが出版した「神風特別攻撃隊」という本があることを紹介。そこには、隊員たちの熱意や志願によって特攻が組織され遂行されたとして、それを証するかのように隊員の遺書が掲載されていたのでした。

おそらく、戦後高まった軍国主義批判に対する幹部・指揮官としての自己正当化が最大の目的だったのだろうということでした。

 

それにしても、たった一人に隊員2000人の遺族を訪問させ、1000通の遺書を回収させたのです。訪ねた先は40都道府県、6年を要しました。

 猪口元大佐は、回収にあたった「近江」なる人物に旅費や隊員の本籍の情報などを6年間与え、支援し続けていたのです。旧海軍の幹部によって組織的に行われたのは間違いありません。

よほど世間に知られたくなかったのでしょう。もちろん、遺族には口外を禁じていました。しかし、戦後直後に「特務機関」は存在しなかったはずと出演者は話しています。

 

そもそも海軍は、東京裁判にあたって、天皇の戦争責任に対する訴追の回避、海軍幹部の量刑減刑に秘密裏に奔走したと言われます。BC級戦犯についても、中央の訴追を逃れるため、現地司令官レベルで責任を完結させる弁護方針をとり、証人を隠すなどの工作も行っていたらしい。

この遺書回収も、特攻隊作戦の正当化、自らの責任逃れのために行ったとしか思えません。

 

しかも、遺族から取り上げた遺書を返すこともしないで放置したのです。

番組には、兄が特攻で死んだという弟妹たち遺族が登場していました。母親は、兄戦死の知らせを受けて寝込み、4ヵ月後に亡くなったそうです。初めて兄の遺書を読んだ妹さんたちはただ涙、涙。弟さんは、まるでタイムカプセルのようだ、なぜ今になって……と読む声を詰まらせていました。

 

ですから、猪口元大佐の遺族がインタビューに答えて、「父は枕元に英霊が立つといって苦しんでいた、責任を感じていた」と話していましたが、そのまま素直に受け止められないものがあります。遺族にとってなんてむごいことをしたものか。特攻を命じて約5000人の若い命を無残に散らせた罪の上に、また罪を重ねるとは。やるせない気持ちになります。 戦争は本当に罪つくり。戦争放棄、九条の価値が身にしみた事件でした。