沖縄の地上戦を生き残った人々がいまPTSDを発症

8月に放送されたNHKのドキュメンタリーをきのう再放送していたので見た。 いま沖縄県内各地で、戦争で生き残った高齢者に対し、「精神状態の聞き取り調査」が行われているという。きっかけは、高齢者の間で、原因不明の「身体の痛み」や「不眠」を訴える人が増えてきたことらしい。

 

その人たちがみな、地上戦の体験者であった。そのため「遅発性のPTSD(戦争トラウマによるストレス障害)ではないか」と考える医師や研究者がいるということだ。

 

太平洋戦争の末期、日本で唯一の地上戦となった沖縄では県民の4人に1人が犠牲になった。その凄惨さは、番組に登場した体験者の「戦争に敵も味方もないさ」という言葉どおり、日本人同士、家族同士さえが殺し合いに至るという筆舌に尽くしがたいものだった。

 

その地上戦から67年。そのときの心の傷が、なぜ今になってよみがえるのか。番組では、地上戦から端を発した「基地との隣り合わせの戦後の生活」の影響であることが、調査を進めるうちに見えてきたという。

 

「逃げるときに遺体を踏んだの。そのときのグニャっという感覚が足裏にこびりついて離れないのよ」

あるおばあさんは、痛む足をさすりながら、痛むたびにその感覚を思い出すと言う。

 

これまで口にすることさえできなかった辛い体験。ふつう、PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、原因となる出来事の6ヶ月後くらいに発症するのが通常だという。それが、記憶に関わる米軍基地の存在と生活に押さえ込まれ、60年以上もたったいまになって老いた身体を苦しめる。

 

どんな慰めや労りも、時間でさえも癒すことのできなかった心の傷。長い歳月背負いつづけた荷の重さは、想像するだけでクラクラしてしまう。そんな人たちの目の前に、米軍基地はずうっとあり続けたのだ。感情を消さずには平常心で生きていられない。それが自衛本能だ。心が封じ込めたその苦しさを、身体が訴えはじめた。沖縄に米軍基地があってはならない意味を、私はそこまで深く捉えていなかったと思う。